贈与税のしくみ
故人が所有していた相続財産(遺産)を取得した相続人に対しては、相続税が課税されます。そこで、将来の相続税の課税を逃れようとして、親が生きているうちに、親の財産を配偶者や子供へ贈与することが考えられます。
この生前の贈与に対して何ら税金が課税されないと、生前に財産の贈与をしなかった人は生前から所有している財産全部に対して相続税が課税され、一方、生前に配偶者や子供に贈与した人には、残った相続財産(遺産)にのみ相続税が課税され、生前に贈与をした部分には、何も課税されない結果となります。
これでは、相続税負担の不公平をもたらすことになりますので、生前に財産の贈与があった場合には、将来の相続税を補完する目的で、その財産の贈与があったときに贈与税を課税することになっています。
なお、相続は事前の予測なしに発生しますが、贈与は生きている間に任意の額を任意の時に行うことができ、また複数年にわたり分割することもでき、税負担の調整を図ることができます。
そこで、贈与税が相続税の負担軽減の防止のために、相続税よりも税負担が重くなるように、基礎控除は低く抑えられ、税率も高くなるように設定されているのです。
贈与税の課税対象となる財産【みなし贈与財産】
贈与税は原則として贈与を受けた財産のすべてが課税対象になります。また、民法上の本来の贈与でないものを税法上、贈与とみなして贈与税が課税される場合もあります(みなし贈与財産)。逆に、国民感情や他の税金が課税されるなどの理由から、贈与税がかからない財産もあります(非課税財産)。
では、税法上、贈与とみなされる財産(みなし贈与財産)についてはどのようなものがあるのでしょうか? みなし贈与財産には、以下のようなものがあります。
① 保険料を負担しないで保険金を受け取ったとき
自分で保険料を支払っていないのに、保険金を受け取った場合には贈与とみなされます。しかし、死亡したときにもらえる生命保険金や死亡退職金は、相続税の対象となる場合があります。
② 掛金や保険料を負担しないで定期金の給付を受けることとなったとき
年金などの支給目的で掛け金を支払っている者が夫で、その定期金の受給者が妻の場合は、定期金受給権の贈与とみなされます。
③ 著しく低い価格で財産を譲り受けたとき
相場よりも極端に安い価格で売買されたときは、相場との差額分が贈与と見なされることがあります。
④ 債務免除益等
他人の借金を代わりに支払ってあげた場合や借金を免除してあげたような場合は、その支払ってあげた分や免除した分は贈与とみなされます。
⑤ 親族間の金銭貸借
親子間や親族間で金銭の貸し借りがあった場合、無利息部分は贈与とみなされることがあります。また、利息が付いていても極端に低利息であれば、みなし贈与財産とみなされることがあります。
贈与税が課税されない財産【非課税財産】
贈与税は、本来は贈与を受けたすべての財産が課税対象になりますが、贈与により取得した財産のなかには、その財産の性質、公益性、社会政策的な見地などから、贈与税を課税することが適当でないと認められる財産もあります。
そこで、このような財産に贈与税を課税するのは適当ではありませんので、非課税財産として法律に定められています ( ※贈与税ではなく所得税など他の税金がかかる場合もあります )。非課税財産となるのは、以下のようなものです。
① 法人からの贈与により取得した財産
贈与税は、もともと相続税を補完するために設けられており、生前贈与によって相続税の負担軽減を図ることを防止するために贈与税が課税されます。
しかし、法人については、継続することが前提になっており、相続は発生しません。法人が解散する場合でも相続税は課税されません。そのため、相続税を補完するための贈与税は必要ありませんので、法人からの贈与により取得した財産は、贈与税の非課税財産とされているのです。ただし、贈与税は非課税とされますが、取得した個人の一時所得として、所得税が課税されます。
② 扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
必要な都度の贈与に限ります。非課税とされるのは、通常必要と認められる範囲のものに限られ、取得した財産を生活費には充てず預金したような場合には贈与税が課税されます。また、「生活費」とは、通所の日常生活を営むのに必要な教育費以外の費用をいい、治療費、養育費その他これに準ずるものが含まれます。
③ 公益を目的とする事業を行う一定の者が取得した財産で、その公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
公益事業用財産は、取得した公益事業者が自分で使わず公益の用に供するので、その公益事業というものを税制面からも援助する意味で課税されないことになっています。
④ 特定公益信託から交付される金品で一定の要件に当てはまるもの
財務大臣の指定するものまたは学生もしくは生徒に対する学資の支給を目的とするものは贈与税の非課税財産となります。これは、一定の特定公益信託から交付される金品は、文化的・社会的に貢献した人に対する表彰を意味したり、学術を奨励する等の理由から贈与税は課税されないことになっています。
⑤ 心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金の受給権
条例の規定により、地方公共団体が精神または身体に障害のある者に関して実施する心身障害者共済制度にもとづいて支給される給付金の受給権は、贈与税の非課税財産となります。
⑥ 公職選挙における候補者が選挙運動に関し取得する金品
国会議員、地方議会議員などの公職選挙法の適用を受ける公職の候補者が、選挙運動に関し、贈与により取得した金銭、物品、その他の財産上の利益で、公職選挙法の規定による報告がされたものは贈与税の非課税財産となります。
⑦ 特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権うち6,000万円までの部分
特定障害者が特定障害者扶養信託契約にもとづいて、信託受益権を取得した場合において、信託の際に、障害者非課税信託申告書を納税地の所轄税務署に提出したときは、その取得した信託受益権のうち6,000万円(特別障害者以外の特定障害者は3,000万円までが非課税限度額)までは、贈与税の非課税財産となります。これは、特定障害者を子供にもつ親が、子供を受益者として信託を設定したような場合で、子供が受ける信託受益権は、その特定障害者である子供の生活の安定を図るものであることから課税されないこととされています。
⑧ 個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答等のための金品で、社会通念上相当と認められるもの
常識的な範囲内のものであれば贈与税の非課税財産となりますが、常識を超えるような贈与が行われた場合には贈与税の課税対象となります。
⑨ 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置によるものです。
⑩ 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置によるものです。
⑪ 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置によるものです。
⑫ 相続開始の年における被相続人から受けた贈与財産で相続税の課税対象となるもの
相続開始年分の贈与財産が、相続税の課税対象となり相続税が課税される場合には、贈与税を課税して相続税を補完する必要がないので、贈与税は非課税となります。
贈与税の計算のしかた
贈与契約が成立し、贈与により財産の移転が行われると、その移転について、贈与税が課されます。贈与税の計算は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除110万円を控除して、その残額に税率を掛けて計算します。1年間に2人以上の人から贈与を受けた場合には、その合計額に対して贈与税が課税されます。なお、1年間に110万円までの贈与を受けても贈与税はかかりません。
① 贈与を受けた財産の合計額 - 基礎控除額 = 課税価格
② 課税価格 × 税率 - 控除額 = 贈与税額
贈与税の計算をする際の課税価格は、その財産の贈与時の時価になります。ただし、時価といっても、財産ごとに時価を把握することは難しいので、財産評価基本通達による評価額を時価として計算します。
例えば、1月1日から12月31日までに、20歳以上の子供が父から500万円、母から100万円の贈与を受けた場合の贈与税の計算は、
① (500万円+100万円) - 110万円(基礎控除)= 490万円(課税価格)
② 490万円 × 20%(税率) - 30万円(控除額) = 68万円(贈与税額)
となります。税率や控除額は下記の贈与税速算表を利用して計算すると便利です。
<贈与税の速算表>平成27年1月1日以降
(1)20歳以上の者の直系尊属からの贈与
基礎控除後の金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超 400万円以下 |
15% | 10万円 |
400万円超 600万円以下 |
20% | 30万円 |
600万円超 1,000万円以下 |
30% | 90万円 |
1,000万円超 1,500万円以下 |
40% | 190万円 |
1,500万円超 3,000万円以下 |
45% | 265万円 |
3,000万円超 4,500万円以下 |
50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(2)上記(1)以外
基礎控除後の金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超 300万円以下 |
15% | 10万円 |
300万円超 400万円以下 |
20% | 25万円 |
400万円超 600万円以下 |
30% | 65万円 |
600万円超 1,000万円以下 |
40% | 125万円 |
1,000万円超 1,500万円以下 |
45% | 175万円 |
1,500万円超 3,000万円以下 |
50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与に関する法律関係
贈与とは、民法上の契約に該当し、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受託するとことによってその効力を生じます。つまり、一方が「この財産をあげる」と言い、相手が「その財産をもらう」と言った時に成立するのです。
贈与は、お互いの意思表示のみで成立しますので、口約束だけでも成立しますし、口約束の贈与については、どちらからも撤回することができるのです。しかし、「すでに履行した部分」や「書面による贈与」は原則として撤回することができません(民法550条)。
贈与契約が成立したかどうかが争点になるケースも実務上多いので、贈与契約が成立しているという証拠として確定日付のある贈与契約書を書面で作成しておくべきです。
税務上では、贈与後におけるその贈与財産の使用収益や管理等を実際に行っている者が誰かなどについて調査されることになります。親が子供の名義で預金をしており、通帳や印鑑を親が実質的に管理している、いわゆる「名義預金」はその典型例と言えます。
相続か?贈与か?どちらが得策か?
相続が発生するまで財産を所有していた方がいいのか?生前に財産を贈与した方がいいのか?どちらが得策なのかは、まず自分の財産がどれだけあるのか整理すること、つまり自分の財産の棚卸しをする必要があります。
いま現在の所有資産にはどんなものがあり、相続が発生した場合の相続税額はいくらぐらいになるのかをシミュレーションしてみます。そして、その税額を減らすためには、「いつ、どのようなことをすればいいか」という計画を立てるのです。
たとえば、今の時点で相続が発生した場合の税率が30%であったなら、その税率よりも低い税率の贈与税であれば、多少の贈与税を払ったとしても結果的な税負担のトータルは軽減できるのです。
そして、相続税対策の計画を立てる際には、推定相続人同士の関係や相続税や贈与税の特例が使えるか等を考慮に入れながら、棚卸しした財産構成をもとにしてシミュレーションしていかなければなりません。まさに相続対策はオーダーメイドと言われる所以です。
株のような有価証券や土地のように値上がりや値下がりする財産については、相続するタイミングは誰にもわかりませんので、結果的に節税にならない場合もあります。
また、相続の際の納税資金として生前に現金を贈与しても、受贈者(贈与を受けた人)が相続時までに消費してしまい相続時に納税資金が不足してしまうようでは、相続時にまた新たに納税資金を確保する方法を考える必要が生じてしまい、何のための相続対策だったのかわからなくなってしまいます。
相続税対策の計画を立てる際には、将来的に予測される税法等の遺産相続にまつわる関連法規の改正も考慮に入れてシミュレーションしなければならないでしょう。
ですので、相続か?贈与か?どちらが得策か?は、少なくとも1年に1回位はシミュレーションしておくべきです。
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