遺留分とは、一定範囲の相続人に保障された相続財産のうちの一定の割合であって、被相続人の贈与や遺贈によって奪われることのないものです。
相続には、残された遺族の生活保障という意味合いもあり、被相続人はいくら自分の財産だからといって、すべて自由に処分することはまで法が許しているわけではありません。
民法では、相続財産のうち一定割合は必ず一定範囲の相続人に留保されると定められており、被相続人の遺言でもこれを侵害することはできません。
このように、相続人が取得することを保証された分を遺留分といい、遺留分を有する相続人を遺留分権利者といいます。
この遺留分権利者の範囲は、配偶者と子(代襲相続人を含む)、直系尊属となっており、法定相続人のうち、兄弟姉妹には遺留分は認めれらていません。
遺留分算定の基礎となる財産
遺留分算定の基礎となる相続財産は、
『被相続人が相続開始時において有していた財の価格+相続開始前の1年間に被相続人が贈与した財産の価格(1年前でも当事者双方が遺留分侵害を加えることを知って行った贈与がある場合、それを含む)-債務の全額』
によって計算した金額をいいます。
被相続人以外の者に対してなされた贈与や遺贈も含まれるなどの点で、相続分を算定する場合の基礎となる相続財産とは計算方法が異なりますので注意してください。
なお、相続財産中に条件付きの権利や存続期間の不確定な権利がある場合などは、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価にしたがいその価格を定めます。
遺留分減殺請求の手続き
相続人の遺留分が侵害されたときには、遺留分権利者やその承継人は、受遺者や受贈者に対して遺留分の減殺請求をすることができます。
実際には、まだ具体的な財産分与が行われていないのであれば、遺留分を引いた額を受遺者などに渡します。すでに相手方に財産が渡っているのであれば、遺留分の返還を請求することになります。
注意しなければならないのは、遺留分の減殺請求には時効があり、遺留分権利者が相続の開始、および減殺すべき贈与、または遺贈があったことを知った時から、1年以内(または相続開始から10年以内)に行わなければなりません。逆に遺留分を放棄するのであれば、1年間何もせずに放置しておけばいいわけです。相続開始後の遺留分放棄であれば特に決まった手続きが必要になるわけではありません。
(相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所での手続きが必要になります。)
遺留分を主張する場合、訴訟によることもできます。この場合は弁護士さんに依頼することになります。しかし、訴訟になると、費用も時間もかかってしまいます。
そこで、内容証明郵便を利用して遺留分の減殺請求するのが一般的な方法です。
ただ、相続手続きに詳しくない通常の士業さんへ遺留分減殺請求の手続きを依頼しても、遺留分の割合による内容証明郵便しかしていないというのがほとんどです。
しかし、これでは遺留分減殺請求の実効性に疑問が残るのです。つまり、内容証明郵便を利用して遺留分減殺請求をする場合、相手方がその遺留分の減殺に素直に同意すればいいのですが、同意しない場合には訴訟によって遺留分の減殺を実現することになってしまいます。これでは、訴訟を利用した場合に費用と時間がかかるのを避けるために内容証明郵便による遺留分減殺請求を選択したのに、費用も時間もかかる訴訟を利用しなければならなくなってしまいます。
そこで、当研究所では、きっちりと遺産調査をおこなったうえで、遺産目録・相続計算書を作成し、侵害された遺留分を計算し、遺留分の割合ではなく具体的に「期限までに○○○万円をお支払ください」と相手方に内容証明郵便にて請求します。
これにより相手方は、
・遺産総額を把握されてしまっていてごまかせない。
・減殺請求に応じず、訴訟になっても負けてしまう。
ということを理解するようになるのです。
だからこそ、高い確率で、訴訟によらずとも、遺留分を取り戻すことができるのです。
【遺留分減殺請求のポイント】
◎ 遺留分減殺請求権の行使は、内容証明郵便で減殺請求権を行使し、権利が時効にかかる前に通知した事実を証拠として残すことが重要です。
◎ 相手方が減殺請求に応じる場合は合意書を作成します。
◎ 具体的な遺留分の金額を算出して請求することで、成功率が高くなります。
また、申告後に遺留分減殺請求があった場合には税務手続きが必要になってくるケースもございますが、当研究所の相続専門税理士が税務手続きを担当させていただきますのでご安心ください。
(付録)
1. 申告後に遺留分減殺請求があった場合の税務手続き
相続税の申告によって相続税額が確定した後に、遺留分権利者から遺留分の減殺請求が行われたときに税務上の問題が生じます。
これは、被相続人が遺した適法な遺言に基づいて、相続人や受遺者が相続財産を取得し、相続税の申告を既に行った後に、遺留分権利者から減殺請求があり、その履行により、相続財産と相続税額に変動が生じれば、既に申告した相続税額に過不足が生じるからです。
この場合のとるべき税務手続は次のとおりです。
(1)遺留分の減殺請求を受けた者
既に確定した相続税額が過大となるため、更正の請求をすることができます。手続期間は、遺留分の減殺請求に基づき返還又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。
(2)遺留分の減殺請求をしたことで財産を取得し、新たに相続税の申告義務が生じた者
納付すべき税額が生じるため、期限後申告をすることになります。手続期限の定めはありませんが、申告が無い場合税務署長による決定が行われます。
(3)既に相続財産を取得していたことで相続税の申告書を提出していた者が、遺留分の減殺請求によりさらに財産を取得した場合
既に確定した相続税額に不足が生じるため、修正申告をすることになります。手続期限の定めはありませんが、申告がない場合税務署長による更正が行われます。
2.実務上の対応
相続税法上は前記のような手続規定を設けていますが、遺留分の減殺請求があって相続税額に異動が生じても、相続人相互間で合意し、異動した税額分を金銭等で授受すれば、更正の請求と期限後申告・修正申告をする必要はありません。
ただし、遺留分の減殺請求をしたことで財産を取得した者は、相続税額の納付義務が生じるため場合があるため、期限後申告又は修正申告をしなければなりません。この申告が無い場合、税務署長による決定又は更正が行われます。