自筆証書遺言

担当専門家  行政書士

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付および氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言です。(民法968条)

自筆証書遺言は、費用がかからず簡単に作成できるので、遺言者自身の判断で作成しがちですが、遺言書は法律に定める方式に従っていないと無効となってしまいますので(民法960条)特に注意が必要です。

<自筆証書遺言のメリット>

  • 遺言書作成に費用がかからない
  • 遺言書の作成自体が面倒でなく自分一人で容易に作成できる
  • 遺言書の内容を秘密にできる

<自筆証書遺言のデメリット>

  • 要件が厳格で、方式不備で無効となる可能性が高い
  • 遺言者の死後、遺言書が発見されず、または一部の相続人により隠匿・改ざんされるおそれがある
  • 遺言書の内容に法律的な疑義が発生するおそれがある
  • 家庭裁判所の検認手続きが必要である
  • 視覚障がい者の方には利用しづらい

自筆証書遺言でデメリットとされている点の多くは、遺言者が法律の専門家のチェックを受けないままに、遺言者が1人で遺言書を作成したことによって生ずるものです。遺言書作成の際には遺言書作成を得意とする行政書士のような専門家による適切なアドバイスを受けるようにしましょう。


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自筆証書遺言の要件(民法968条)

自筆証書遺言を作成する場合には、その遺言書が法律の要件を満たしていることが必要です。法律の要件を満たしていない遺言書は無効となってしまいます。自筆証書遺言の要件は以下のとおりです。

チェックマーク  全文が自筆であること

パソコンやワープロ印字は無効です。ビデオテープに録画・録音しても遺言書の効力は認められません。

しかし、カーボン紙により複写して書かれた遺言書は認められています(最三小判平5.10.19)。また、他人の添え手による補助を受けた自筆証書遺言について、①遺言者本人が自書能力を有し、②他人の添え手が、始筆もしくは改行にあたり、もしくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、または遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ③添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できる場合は、例外的に自書の要件をみたすとした判例もあります(最一小判昭62.10.8)。

チェックマーク  署名があること

戸籍上の氏名でなくても差し支えありません。ペンネーム、芸名、通称名でも、遺言者が誰であるかについて疑いのない程度の表示があれば認められています。氏または名どちらか一方でも遺言者が誰なのか特定できるならば有効です。

ただし、後に無効とならないように、また不動産登記ができるように、できるだけ戸籍や不動産登記簿などの公的な証明書に基づいた情報で作成するようにしましょう。

go-to  不動産の相続手続き

チェックマーク  日付があること

遺言書に日付が要求されているのは、遺言書作成時における遺言者の遺言能力の有無についての判断や、複数の遺言書が存在する場合の各遺言書作成時期の前後の確定などのためです。自筆証書遺言は、通常、遺言者が一人で作成するため作成状況について証人となる者も存在しませんので、遺言書成立時期を明確にするために遺言書への日付の記載が必要とされているのです。

そのため、作成年月日のない自筆証書遺言は無効です。例えば、平成27年1月「吉日」と記載した自筆証書遺言は無効です。これに対して、「遺言者の60歳の誕生日」などというように日付が特定できるのであれば「○年○月○日」のように記載しなくても有効です。

なお、日付も「自書」が必要であることから、日付印等を使用した場合、遺言書は無効になりますので注意しましょう。

チェックマーク  押印があること

実印である必要はありません。拇印、指印でも認められています。遺言書が複数枚にわたるとき、その数枚が1通の遺言書として作成されたものと確認できるのであれば、その一部に日付、署名、捺印が適法になされている限り有効です。

しかし、実務上では実印で押印するのがほとんどですし、遺言書が複数枚にわたる場合も契印をして1通の遺言書であることを確認できるようにします。

チェックマーク  加除その他の変更が法律に違背していないこと

遺言書の加除その他の変更の方法は、①遺言者自身によりなされること、②変更の場所を指示して訂正した旨を付記すこと、③付記部分に著名すること、かつ④変更の場所に押印することです。(民法968条2項)

このように遺言書の訂正や修正には厳格な方式が要求されています。単に二本線をひいて印を押しただけでは修正したとは認められないのです。

通常、文書の訂正方法としては、訂正箇所に押印し、訂正した旨を欄外に記載するという方法がとられますが、民法が遺言については訂正箇所への署名まで要求するという厳格な方法を採用したのは、他人による遺言書の改ざんを防止するためです。

従って、作成された自筆証書遺言が完全に有効なものであるためには、遺言に必要な記載事項が遺言者の自筆によって作成されているばかりではなく、その加除訂正についても法律により定められた方式によるものであることが必要となります。

所定の方式に従わないでした加除訂正は無効ですし、その加除訂正はなされなかったものとして扱われます。したがって、加除訂正に方式違背があるだけで、当該遺言書全体が当然に無効になるわけではありません。

加除訂正がなされなかったとして扱われる結果、訂正前の記載が判読可能であれば、訂正前の文言が記載された遺言書として扱われることになります。

他方、所定の方式に従わないでした加除訂正により、元の記載が判読不能である場合には、そもそもその部分は一切記載されていないものとして扱われることになります。この場合、当該記載が遺言に必須のものである場合には、遺言全体が無効とされることがあります。

以上のように加除訂正の方法を誤ると、遺言自体が無効になってしまう場合がありますので、誤りがあった場合には法律に定められた方式どおりに加除訂正を行うか、できれば初めから書き直すようにした方が良いでしょう

※公正証書遺言については、その作成過程で誤記を発見した場合は、訂正の方式について規定された公証人法38条により対処されますが、その作成後に誤記を発見した場合は、実務上、公証人作成の「誤記証明書」によって対処することになります。


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共同遺言の禁止(民法975条)

遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることはできません。各自の遺言の自由や遺言撤回の自由を制約することになってしまうので共同遺言は禁止されています。

ただし、作成名義の異なる2つの遺言が別々の用紙に記載され、契印が施されたうえ合綴されているが、容易に切り離すことができる自筆証書遺言について、民法975条により禁止された共同遺言にはあたらないので有効とされた判例があります。(最三小判平5.10.19)

遺言の撤回・取消し

同一の遺言者が作成した遺言書が2通あり、それぞれの内容の一部が異なる場合は、作成年月日の後のものが有効とされています。

例えば、前の遺言書には「預金債権のすべてを長男に相続させる」と書かれており、後の遺言書では「預金債権のすべてを次男に相続させる」と指定されている場合は、預金債権は長男ではなく、次男に相続させることが遺言者の最終的な意思とみなされます。

つまり、新たに遺言書を作成することによって、それ以前に作成した遺言書の内容を撤回し、または取消すことができるということです。これは、遺言書の種類が前と同じであるかどうかは関係ありません。「公正証書遺言」を作成した後に、法的に有効な「自筆証書遺言」を作成することによって、前の「公正証書遺言」の内容を変更することも可能です。

遺言の撤回・取消しをする方法

遺言者は自由に遺言の撤回・取消しができます。この遺言の撤回には以下のような方法があります。

①  後の遺言で撤回する方法

新たに遺言をして、その遺言の中で「前の遺言を撤回する」と表明する方法です。最も明確な方法です。

公正証書遺言を撤回する場合、公正証書番号や作成年月日、公証人の名前などを記載して撤回する旨を書くようにします。公正証書遺言を撤回するのに、自筆証書遺言によっても行うことは可能ですが、撤回したかどうかが争われることもありますので、後の遺言は公正証書のような、より厳格な方法で作成することをお勧めします。

②  前の遺言と抵触する遺言を作成する方法

前に書いた遺言の内容と抵触する内容の遺言を新たに作成した場合には、その抵触する部分は撤回したとみなされます。

③  遺言書を破棄する方法(自筆証書遺言の場合)

自筆証書遺言では、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものをみなされます。

しかし、公正証書遺言の場合には、原本が公証役場に保管されていますので遺言書を破棄したことにはなりません。

④  遺贈の目的物を破棄または生前に処分する方法

遺言者が遺贈の目的物を破棄したときは、遺言を撤回したものとみなされます。例えば、古い建物を取壊して新しい建物を建てた場合には、その古い建物のことが書かれた部分は撤回されたものとみなされます。また、遺贈の目的物を第三者に譲渡したような場合も遺言を撤回したものとみまされます。

ですので、このような場合は誤解を招かいためにも新たに遺言書を作成しておくべきです。

遺留分への配慮

遺言書を作成する場合には、自筆証書遺言であれ公正証書遺言であれ、遺留分への配慮が必要となります。

そもそも遺留分を侵害するような遺言も無効ではありません。例えば、全財産を相続人以外の第三者に遺贈するという遺言も有効な遺言です。

しかし、そのような遺言が実現されると、その遺言そのものが相続人間の紛争のもとになり、遺言書を作成したがために家族間で揉めてしまう可能性が高くなってしまうのです。また、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求を主張してくることも考えられます。

go-to  遺留分減殺請求

そのため、遺留分への配慮が必要となるのですが、遺留分への配慮としては遺留分を侵害するような遺言書を作成しないことが一番です。

ただ、それでも遺留分を侵害する可能性のある遺言書を作成する場合には、遺言書の付言事項を作成したり、事前に遺留分を放棄してもらったり、保険を利用したり等の対策を検討するべきです。

どのような対策が適切かは、財産構成や相続人の関係、遺言者の想い等によって変わってきますので、遺産相続に強い行政書士や相続コンサルタントに相談されるとよいでしょう。


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自筆証書遺言の検認

自筆証書遺言の場合、遺言者が死亡し相続が発生した場合には、家庭裁判所の検認手続きが必要となります。

自筆証書遺言の検認手続きは、①相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせること、②遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造や変造を防ぐことを目的として行われる家庭裁判所の遺産相続手続きです。

つまり、検認は検証ならびに証拠保全のために行われる遺産相続手続きなのです。

この検認手続きは、遺言書の有効・無効を決定するものではありません。よって、後日、検認済みの遺言書の有無や無効を地方裁判所で争うことができるのです。

また、検認手続きには全相続人の立会いを要しますが、検認期日にどうしても都合のつかない方は出席ができない旨を家庭裁判所へ連絡すれば出頭しなくても検認手続きは滞りなく進められます。

また、不動産の相続登記や銀行預金等の遺産相続手続きをするためには、法的要件を満たした有効な自筆証書遺言でも、家庭裁判所で検認手続きを済ませたことを証明する「遺言書検認済証明書」(検認済証)が必要となります。

なお、検認は遺産相続手続きの一つなのですが、家庭裁判所へ申立てればすぐに行ってもらえるというものではありません。また、検認申立書には、遺言書の写し(封印されていない場合)、遺言者の除籍謄本、相続人全員と申立人の戸籍謄本等の添付資料が必要となるのです

検認手続きが終了したのち、裁判所書記官は、検認済証を作成し、遺言書末尾に検認済証を編綴、契印して、遺言書を申立人に返還することになります。また、検認に立ち会わなかった申立人、相続人、受遺者等がいる場合は、それらの者に検認済通知書が通知されます。

なお、家庭裁判所における検認手続きを経ずに遺言書の執行がなされた場合、違反者は5万円以下の過料に処せられます。ただし、検認手続きを経ずに遺言を執行した場合でも、その執行行為は無効とはなりません。

もっとも、実務においては、遺言の執行に際して、前述のように検認手続きを経ていることを求められるのが一般的です

例えば、不動産登記では、遺産相続を原因とする所有権移転登記申請において、自筆証書である遺言書を、遺産相続を証明する書面として添付する場合には、検認手続きを経ていることを求められるのです。また、預貯金の解約等の手続きにおいても、金融機関から検認調書等を要求されるのが一般的です。

遺書とエンディングノート

遺言(いごん)のことを「遺書(いしょ)」と言ったり、遺言と遺書の違いがわからない方もいらっしゃいます。

「遺言」と「遺書」は全く違うものなのです

「遺言」は、自分が死んだ後の不動産や現金預貯金などの財産を誰にどれくらい与えるのか指定することや遺産分割の方法を決めることができます。また、認知や相続人廃除など一定の身分上の事柄も決めることができます。

これに対し「遺書」は、「死ぬこと」「亡くなること」を前提に、無念さや潔白さなどの財産には関係のない自分の想いを書くものです。また、エンディングノートを書いたからと安心している方もおられますが、エンディングノートは遺言とは違い法的な効力はありません。

遺言の付言

遺言書の「付言事項」とは、法律に定められていないことを遺言書で書く事項のことをいいます。

法律に定められた事項(法定遺言事項)についてされた遺言は、法的な効力を有しますが、付言事項については法的な効力を生じません。つまりその付言事項として書かれた内容を実現するための強制力のある手段がないのです。

例えば、希望、事実、訓戒などを遺言に付言したときは、その事項は法的な効力は生じませんが、相続人達が遺言者の意思を尊重して結果的に遺言者の希望が実現されるということも多いのです。ただ、いくら法的効力がないといっても公序良俗に反することは付言しても当然に無効です。

付言には法的効果はありませんが、遺言者の心を相続人に伝えることができます。つまり、法的効果のある遺言の本文を心の部分で側面から支えているのが付言であるとも言えます。

状況にもよりますが、遺言者の気持ちや想いが相続人に伝われば、遺留分減殺請求の主張を防ぐ効果も期待することができます。そのため、遺言書の本文と付言はセットで書かれることをお勧めいたします。

go-to  遺留分減殺請求

遺言書を作成する際には、相続人関係や財産構成はもちろん、遺留分のこと、不動産の共有関係のこと、特別受益のこと、非嫡出子の認知のこと、銀行預金のこと等、様々なことに注意しながら、かつ法律の要件を満たした有効な遺言書を作成しなければなりません。そのため、まずは遺言書作成を得意とする行政書士がいる大阪相続研究所に相談されてみることをお勧めいたします。

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