生命保険等の相続手続き

担当専門家  行政書士、ファイナンシャルプランナー

人の財産というのは、その人が死亡したときに持っていた財産だけではなく、死亡によって得られる財産もあります。生命保険金や死亡退職金は、死亡という事実があってはじめて請求権が発生します。また、事故によって死亡した場合には、加害者に対して損害賠償請求権が発生します。これらも相続財産(遺産)になる場合があるのです。

生命保険金と相続

生命保険に加入していれば、被保険者の死亡の事実によって保険金が支払われます。保険金はその金額が大きな場合が多く、これが相続財産(遺産)に含まれるかどうかは、相続人にとって大きな関心事ではないでしょうか?

生命保険金が相続財産(遺産)かどうかは、「受取人が誰になっているか」で変わってきます。

被相続人が自分を受取人として契約し、他の保険受取人を指定していなかった場合は、被相続人の死亡によって相続人は保険金請求権を取得します。この請求権は被相続人の相続財産(遺産)に含まれ、相続人が他の相続財産(遺産)と併せて相続します。

この場合、相続放棄をした者は生命保険金を相続することもできなくなってしまいますので、保険金を受け取ることはできません。

go-to  相続放棄

被相続人が、相続人の誰かを受取人に指定していた場合は、生命保険金請求権は受取人に指定された者の「固有の権利」ですから相続財産(遺産)に含まれません。したがって、相続とは無関係に、受取人として指定された者が生命保険金を請求し受け取ることができます。

この場合、受取人に指定された者が相続放棄をしたとしても、相続とは無関係の受取人の「固有の権利」であるので保険金を受け取ることができます。また、相続財産(遺産)に含まれないことから遺産分割協議の対象にもなりません。

go-to  遺産分割協議

死亡保険金を受け取るためには、まず契約者または受取人が電話などで保険会社に連絡すると、保険会社から手続きの案内があり、それに従って手続きを進めることになります。

なお、死亡保険金の請求期限は3年(簡易保険は5年)ですが、すみやかに手続きを進めるのが良いでしょう。


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生命保険金と受取人の指定

チェックマーク  特定の誰かが受取人に指定されていた場合

この場合、保険契約における「受取人」としての資格に基づいて受領するものであり、生命保険金請求権は受取人固有の権利となります。そのため相続財産(遺産)とはなりませんし、遺産分割協議の対象にもなりません。

チェックマーク  受取人を単に「相続人」と指定した場合

この場合、相続財産(遺産)ではないのですが、相続人各自が保険金請求権を取得します。そのため、相続人のなかに相続放棄をした者がいたとしても、相続放棄の効果はその者の保険金請求権には影響しません。

相続人が複数人いる場合の各相続人が取得する保険金請求権の割合は相続人間で均等の割合によるとする考え方や法定相続分によるとする考え方もありますが、保険会社との契約約款で定められている場合はその約款に従うことになります。

チェックマーク  指定されていた受取人が死亡している場合

この場合、指定されていた受取人の相続人が受取人の地位を相続により承継することになります。しかし、受取人の指定変更ができますので、後々のトラブルを避けるためにも、指定していた受取人が死亡した際には、すみやかに受取人の指定変更の手続きをすることをおすすめいたします。

遺言書によっても受取人の指定はできますが、生命保険契約で定めた受取人と遺言書で新たに指定された受取人とが異なる場合には後々トラブルになる可能性が大きいので、遺言書による受取人の指定はあまりおすすめできません。

go-to  遺言書

生命保険金と特別受益

生命保険金については、原則として、特別受益(被相続人の生前に被相続人から学費や生活費などの財産を特別に譲り受けていた者が相続人の中にいた場合に、他の相続人との間で不公平になるので、この不公平を調整するための制度)にもならないというのが判例の立場です。

ただし、生命保険金を受領した相続人だけが他の相続人と比べて有利になって相続人間で著しく不公平になるケースもあると思いますので、その場合に判例は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条(特別受益者の相続分)の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」は、例外的に生命保険金も特別受益になるとしています(最高裁判決平16.10.29)。

保険金に税金はかかるの?

生命保険を契約するとき、誰が保険料を支払い(契約者)、誰に保険をつけ(被保険者)、誰が保険金を受け取るか(受取人)によって、受け取る保険金は、相続税・贈与税・所得税(+住民税)のいずれかの課税対象となります。

契約者 被保険者 受取人 税金
ケース1 夫(死亡) 相続税
ケース2 夫(死亡) 相続税
ケース3 妻(死亡) 所得税
ケース4 妻(死亡) 贈与税

※かかる税金の種類によって使える基礎控除などの種類も異なります。

ちなみに相続税が課せられるケースの場合は、非課税枠が設けられており次の計算式で求められる一定の金額までは相続税がかかりません。

「生命保険金の非課税金額=500万円×法定相続人の数」

例えば、法定相続人が妻、子供2人の合計3人のケースですと、500万円×3人=1500万円までは、相続税がかからないことになります。

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死亡退職金と相続

死亡退職金に関して問題になるのは、内縁の妻など、法定相続人以外の者が、死亡退職金を受け取ることができるかどうかです。これは死亡退職金が相続財産(遺産)に含まれるかどうかという問題に関係します。

死亡退職金とは、労働者が在職中に死亡した場合に使用者から給付される金銭です。これは、死亡当時その者と生活を共にして、その収入によって生活を維持していた者の、その後の生活を救済するために支給されるものです。

会社の就業規則などで死亡退職金についての定めがある場合や、慣行として支払われている場合には、労働者の遺族は支給を請求することができます。

そして、死亡退職金が相続財産(遺産)に含まれるかどうかは、「受取人の指定があるかないか」で違ってきます。

会社の就業規則などで受取人が定められていない場合、相続財産(遺産)となるか受取人の固有財産となるかは、個々のケースによる判断となりますが、判例は相続財産(遺産)とするケースが多いようです。相続財産(遺産)とされた場合は、退職金の請求権は死亡した本人が取得し、その請求権を相続財産(遺産)として相続人が相続することになります。

これに対し、就業規則などで受取人の指定がある場合には、相続財産(遺産)には含まれず、指定された者が受取人固有の権利として請求することができます。そのため、この場合には、相続とは無関係に受取人として指定された者が死亡退職金を請求し受け取ることができますし、その死亡退職金は遺産分割協議の対象とはなりません。

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また、会社の就業規則などで受取人の指定がある場合には、通常は第1順位の受取人を配偶者とされています。この場合の配偶者に法律上の婚姻届を提出していない者、いわゆる内縁の妻が含まれるのでしょうか?

この点について判例は、「死亡退職金の支給等を定めた特殊法人の規程に、死亡退職金の支給を受ける者の第一順位は内縁の配偶者を含む配偶者であって、配偶者があるときは子は全く支給を受けないこと、・・・・死亡した者の収入によって生計を維持していたか否かにより順位に差異を生ずることなど、受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方がされているというのであり、これによってみれば、右規程は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当であり、そうすると、右死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、受給権者である遺族が存在しない場合に相続財産として他の相続人による相続の対象となるものではないというべきである(最高裁判決昭和55年11月27日)」として、受取人として内縁の妻が指定されている場合には、その内縁の妻も受取人になれるとしました。しがたって、この場合、死亡した者の子供などの相続人から返還請求があっても内縁の妻はその請求に応じる必要はありません。

また、死亡退職金についても生命保険の場合と同じように非課税枠が設けられており次の計算式で求められる一定の金額までは相続税はかかりません。

「死亡退職金の非課税金額=500万円×法定相続人の数」

死亡退職金が相続財産(遺産)に含まれない場合であっても、相続税を計算する際には被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金を「みなし相続財産」として相続税計算に含めることになります。(※相続税法上は生命保険金、死亡退職金とも「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になります。)

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損害賠償請求と相続

事故による死亡で相続が開始することがあります。事故によって損害を被った被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を取得します。これは被害者が死亡した場合も同じです。死亡と同時に被害者本人が損害賠償請求権を取得し、この請求権を相続人が相続することになります。

つまり、事故死の場合には、被害者本人が持っていたさまざまな財産に加えて、事故によって故人が得た損害賠償請求権が相続財産(遺産)に加わることになるのです。

また、事故による死亡の場合、死者の親族に対してその精神的損害に対する賠償(慰謝料)として支払われる金銭があります。この慰謝料は相続財産(遺産)ではなく、遺産分割の対象とはなりません。あくまで精神的損害を受けた死者の親族固有の権利です。

損害賠償の請求は、本人に代わって相続人が行うことになります。ただし、このような場合には、本人が死亡しているため、事故の状況が分からないうえに、損害額も逸失利益(生きていたら得られたであろう将来の利益)や慰謝料が主なもので、損害額の算定が複雑になるので、解決にはかなりの時間を要するのが通常です。

そこで、遺産分割協議の際は他の部分の遺産分割を優先して、損害賠償の部分は後の遺産分割協議とするか、あるいは損害賠償の遺産分割は「誰が何%」というように、割合だけで定めておく方法が取られる場合もあります。

なお、事故などの不法行為の損害賠償請求権の消滅時効は、損害および加害者を知ったときから3年(保険金請求権は2年)ですから、遺産分割協議に手間取って消滅時効を成立させないように注意しなければなりません。

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