第三者に貸している貸付金も商売上の売掛金も相続財産(遺産)です!
相続人は亡くなった人が他人に貸していたお金も、他の相続財産と同じように相続します。つまり他人に貸していたお金は、貸付金債権や売掛金債権として遺産である相続財産のなかに含まれるということです。
その遺産相続手続は相続人となった人が貸付金債権や売掛金債権の債務者に対し、その債権を相続した旨を通知します。この際、債務者から債務確認書などの書面をもらっておくことが大切です。
特に口約束や出世払いなどとして正式な契約書を交わしていない場合には、債務者から書面をとっておくことは非常に重要です。後にその書面が証拠となるのです。
もっとも、債務確認書などの書面がとれなかったとしても、債務者が相続人からの通知に従って、貸付金や売掛金の一部でも相続人宛に支払った場合には、債務の存在を承認したことになります。
これらの債権の相続で注意しなければならないのは「時効」の問題です。
既に時効が完成している債権を相続しても、債務者は時効を援用して支払いを拒むのが通常でしょう。これでは貸付金債権や売掛金債権を相続したとしてもその債権を回収することができなくなってしまいます。
そこで、遺産分割する前に、個々の債権の時効の有無を調べておく必要があります。
主な債権の消滅時効
1.貸金債権の時効期間
- 貸主である被相続人か借主のどちらか一方が法人の場合、法人になっていなくても営業上の貸金である場合・・・5年(但し、裁判によって債務名義を得た債権については債務名義が作成された日の翌日から10年に伸長される)
- 上記以外の場合・・・10年
2.売掛債権の時効期間
- 商品の小売代金・・・2年
- 個人の売却代金請求権・・・10年
- 工事の請負代金請求権・・・3年
- 自動車の修理代金・・・3年
- 小切手債権の請求権・手形の裏書人・振出人に対する請求権・・・6ヶ月
この他、被相続人への未払い賃金なども相続財産として相続することができます。被相続人が勤めていた会社などに支払いを請求することになります。このような給料債権の時効期間は2年です。ただし、退職金の時効期間は5年となります。
なお、相続財産に関しては、民法160条により、次の時点から起算して6ヶ月間を猶予期間として、その間は時効が完成しません。
①相続人が確定した時点
②管理人が選任された時点
③破産手続開始の決定があった時点
よく勘違いされている点として、時効期間が経過すれば自動的に時効が完成し、債務者は支払いを請求できなくなると考えられていますが、そうではありません。
消滅時効は債務者が、「時効だから支払いはしない」と主張して初めて効力を発します。つまり、時効を援用してはじめて認められるものなのです。
そのため、債権を相続した相続人は時効だからとあきらめずに債務者に支払いを請求してみるのも債権回収の一つの方法になります。これによって、債務者が債務の一部でも支払いをしたり、借金のあることを認めた場合には、消滅時効は中断することになるのです。
相続した債権は相続人全員で担保する
時効完成までにはまだ時間があっても、債務者に返済能力がない場合があります。
このような場合、遺産分割でその債務者に対する債権を相続分として割り当てられた相続人は結果として返済を受けられないこともあり得ます。
実際に返済を受けられなかった場合、その債権を相続した相続人だけが不利を被らないように、回収額との不足分を他の相続人に請求することができます。
このような場合、相続人全員がその相続分に応じ、債務者の資力不足を引き受けなければならないのです。(民法912条/共同相続人の担保責任)
例えば、父親の遺産2,000万円を兄弟2人で各二分の一ずつ相続したが、弟が相続したのは貸金債権の1,000万円でその内の半分の500万円しか回収できなかった場合、回収できなかった500万円は兄弟で均等に責任を負担することになります。弟は兄に対して500万円の半分の250万円を請求できるのです。
貸付金債権・売掛金債権の遺産相続手続の注意点
まず、債務者宛に相続が発生した旨を通知し、同時に債権を相続したことを連絡します。
そして、金銭消費貸借契約書を締結しているのなら、その訂正を求める。金銭消費貸借契約を締結していないのなら、債務者から債務確認書などの書面を受領すること。
また、売掛金債権の場合は債務者から債務の残高確認をとるようにしましょう。
いずれにせよ、後になって債務者が「そんな借金は知らない」としらばっくれた場合のために、証拠作りをしておくことが大切です。
大阪相続研究所では、行政書士・司法書士・弁護士といった法律の専門家がそろっております。遺産相続に関して貸付金債権や売掛金債権を相続した場合には、まずは大阪相続研究所へご相談ください。