賃貸人が死亡した場合の手続き
賃貸借契約中に賃貸人が死亡した場合、当該不動産の所有権を相続した者が、原則として「賃貸人たる地位」を承継します。通常、相続人が賃貸人の地位を承継しても、賃借人は当然にはそのことを知りませんので、相続したことを教えてあげなければなりません。
この場合、
①賃貸人変更通知
②賃料の振込先変更通知
が必要となります。
新たに賃貸借契約書を作成しなおす必要はありません。相続人は被相続人の地位をそのまま承継するため、相続という事実によって当然に賃貸人たる地位も承継するからです。
ただし、賃料債権の債権者が変更したわけですから、トラブルを避けるためにも賃貸人変更通知は必要です。賃貸借契約書を作成し直すのは次回更新時で十分でしょう。
賃貸人が死亡した場合、賃貸人の銀行口座は凍結されてしまいますので、賃貸アパートの所有者が死亡した場合はできるだけすみやかに相続により賃貸人が変更した旨の通知(賃貸人変更通知)と家賃の振込先変更通知(賃料の振込先変更通知)を出す必要があります。
法定相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまるまでの間は、賃借人に対しては、相続人のうちの一人が、法定相続人全員を代表して賃料を受け取り管理する方法が一般的です。(暫定的に代表者が受け取り管理することについて相続人間の合意は必要です)
遺産分割協議が成立するまでの賃料は誰のもの?
相続開始から遺産分割協議が成立するまでに何年もかかったりする場合がありますが、この場合その間の家賃収入はだれのものになるのでしょうか?亡くなった人が不動産オーナーの場合、相続発生から遺産分割協議書作成までの間も賃料等が発生しますが、その賃料等の帰属について問題が生じるのです。
民法は、「遺産の分割は相続開始のときにさかのぼって効力が生じる」(民法第909条本文)としています。この条文を素直に読めば、遺産分割協議で収益不動産を相続することが確定した相続人が、被相続人の死亡から遺産分割決定までの間の家賃をもらう権利がありそうです。
しかし、最高裁は、『遺産は、相続人が数人ある時は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生じる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的取得するものと解するのが相当』とし、遺産分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生じるものであるが、各共同相続人がその法定相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した債権の帰属は、後の遺産分割の影響を受けない、としています。(最高裁第1小法廷平成17年9月8日判決)」
この判決では、
①賃貸不動産である土地建物と賃貸不動産からの賃料収入は別の財産であるから、賃貸不動産の帰属を決めても賃料の帰属を決めたことにはならない。
②相続開始日まで遡るとされる遺産分割の効力が、賃貸不動産に及んでも賃料債権には及ばない、
とされました。
ようするに、「収益不動産と家賃収入は別のものであり、遺産分割協議で収益不動産を相続する人を決めても、それまでの家賃収入は法定相続分どおりに分けなさい」と考えているのです。
では、相続発生時から遺産分割協議成立時までの家賃収入を遺産分割協議に含めることはできないのでしょうか?
この点、東京高裁で次のような判決がでています。
「相続開始後遺産分割までの間に相続財産から生じる家賃は、相続財産そのものではなく、相続財産から生じる法定果実であり、… 相続財産とは別個の共有財産であり、その分割ないし清算は、原則的には民事訴訟手続によるべきものである。但し、相続財産から生じる家賃が相続財産についての持分と同率の持分による共有財産であり、遺産分割手続において相続遺産と同時に分割することによって、別途民事訴訟手続きによるまでもなく簡便に権利の実現が得られるなどの合理性があることを考慮すると、相続財産と一括して、分割の対象とする限り、例外的には遺産分割の対象とすることも許容されるものと解すべきである。この場合、当事者の訴権を保障する観点から、相続開始後遺産分割までの間の家賃を遺産分割の対象とするには、当事者間にその旨の合意が存在することが必要とすると解するのが相当である。(東京高決昭和63年1月14日)」
この判決では、
①遺産分割までの間に収益不動産から生じる家賃の分割ないし清算は、原則として民事訴訟手続によるべきである。
②例外的に相続人全員の同意があれば、遺産分割協議成立までの家賃収入も遺産分割の対象にできる。
としています。
とすれば、相続発生時から遺産分割協議成立時までの家賃収入も遺産分割協議の中でその帰属を決めてやればよいのです。事案によって書き方も異なりますが、遺産分割協議書には「相続発生から本遺産分割協議書作成までに、各遺産から発生した収益及び費用については、各遺産を相続した者が取得及び負担するものとする」というような文言を入れることになるでしょう。
なお、相続人全員の同意を得られず、遺産分割までの家賃収入を遺産分割協議の対象にできない場合は、法定相続割合で分けないといけないことになります。
※遺産分割協議後の賃料は、所有者となった者が取得します。
相続によって賃貸借契約は終了しないの?
相続が開始したからといって、今までの賃貸借契約が終了するわけではありません。賃貸借契約には賃貸借期間が定められているため、この期間中は原則として賃貸借契約を終了させることはできないのです。
賃貸借契約は「正当事由」がない限り、契約期間が満了した場合でも原則として更新され続けます。賃貸人となった相続人から賃貸借契約の終了を申し入れしたとしても、賃借人はこれに応じる義務はありません。ただし、賃借人が賃貸人の申し入れを承諾した場合には「合意解約」となり賃貸借契約は終了します。
相続人がいない、または相続人全員(次順位の法定相続人も含む)が相続放棄をしたため賃貸人の地位を相続する者がいなくなった場合、利害関係人(受遺者、相続債権者、遺言執行者等)または検察官は被相続人の住所地または相続開始地の家庭裁判所への申立てを行い、その家庭裁判所で相続財産管理人が選任されます。以降、この相続財産管理人が賃貸借契約の管理を行うことになります。
相続財産管理人は、保存行為及び、相続財産の性質を変えない範囲内での利用行為と改良を行う権限があります。この権限を超える行為を行う場合は家庭裁判所の許可を要します。
賃貸アパート・収益不動産の相続手続きにおいては、遺産分割協議等の際に注意しなければならないことも多く、とくに法定相続人が多い場合には賃貸アパートや収益不動産は、もめやすい遺産の代表格といえます。
大阪相続研究所では、不動産流通近代センター所属の公認不動産コンサルティングマスターもおりますので、不動産のコンサルティングを受けながら遺産相続手続きをすすめることが可能です。
遺産相続に関して賃貸アパートや収益不動産を相続した場合には、まずは大阪相続研究所へご連絡ください。